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2019.05.27

【歯科衛生士監修】歯周病を予防の歯磨き粉、歯ブラシの選び方

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「健康な歯」のために、虫歯予防と同じように大切なのが、歯周病予防です。放っておくと歯を失うことにもなりかねない歯周病の症状や原因、日常生活で気をつけたいことを知っておきましょう。
歯周病ケア、予防のための歯磨き粉や歯ブラシの選び方について、附属千里歯科診療所の歯科衛生士・茨木浩子さんに伺いました。

監修/茨木浩子(いばらき ひろこ)歯科衛生士

2009年
一般財団法人サンスター財団へ入社
2011年
日本歯科審美学会 ホワイトニングコーディネーター 取得
2017年
日本咀嚼学会 健康咀嚼指導士 取得
2018年
大阪府糖尿病協会 大阪糖尿病療養指導士 取得
日本歯科審美学会 認定士 取得
2019年
日本臨床歯周病学会 認定歯科衛生士 取得
日本小児歯科学会 認定歯科衛生士 取得

歯周病とは? どんな症状?

歯周病とは、歯周病原因菌がもとで発症する歯周組織の病気です。歯周病は大きく『歯肉炎』と『歯周炎』との二つに分類されます。歯肉炎は、歯茎だけが腫れている状態なので、(炎症がおさまれば)元の状態に戻せます。歯周炎は、歯を支える骨に症状が出ているので、歯科治療が必要になります。

歯はもともと骨の中にしっかり埋まっていて、その上に歯茎があることで支えられています。歯周病原因菌は、歯茎の中に住みついて歯周プラーク(歯垢)を餌にして活発化、歯を支えている骨を溶かしていきます。

深刻な状態になるまでは痛みを感じないことが多いため、日ごろのケアとチェックが大切です。お口の気になる症状をいくつか見ていきましょう。

歯茎が腫れている、ただれている

歯茎が赤く腫れていたり、ただれたりするのは、歯周病の症状の一つです。ですが、それ以外にも粘膜病変の可能性も考えられます。

「例えば、歯磨き時の強すぎるブラッシングが原因のこともあります。虫歯による歯の根の部分の病気や、歯茎にできた口内炎や、カンジダ症によってカビが生えた場合にただれることもあります」

血が出る、膿が出る

歯茎からの出血は「歯肉炎」の可能性もあります。また、自然に出血したり、入浴中に血の巡りがよくなることで出血したりすることもあります。

「歯周炎は、歯を支えている骨がダメージを受けて起こる症状。歯肉炎は、歯茎だけが腫れるものです」

しかし出血だけでなく膿が出るようなら、歯周病や歯の根部分の病気も考えられます。また歯肉炎から歯周炎に進んでしまうこともあります。

口が臭い、口臭がつよい

口臭は、歯周病との関連が考えられる症状です。歯周病原菌(特に嫌気性菌)の代謝過程で出る物質が、臭いの原因です。

「深刻な虫歯の状態も口臭の原因になりますが、そうではないのに口臭が強い場合に、検査をしてみて歯周病だとわかることがあります。歯と歯茎の間のポケットが深く、洗浄すると汚れが出てくることがあるのです。」

歯周病は、痛みを感じないまま10年20年と時間をかけて進行していくので、定期的に自分の口の中の状態をチェックしておくことは大切です。

痛い? 手遅れってどんな状態?

痛いという自覚症状が出ないまま、ゆっくり進行する歯周病。では、痛いと感じたときには、手遅れなのでしょうか。

「歯周病はサイエンスディジーズとも呼ばれ、歯がぐらぐらして初めて痛いと感じる人もいらっしゃいます。歯周病原因菌が歯を支える骨を溶かしぐらぐらしてしまうと、減ってしまった骨が戻ることはありません」

歯茎の炎症で痛みを感じた場合はもちろん、痛みはなくても歯茎の腫れやただれ、出血や膿、口臭など気になる症状があったら、早めに歯科医を受診しましょう。

歯周病の原因は?歯周病菌は悪くない?!

そもそも、どうして歯周病になるのでしょう?「歯周病菌」が原因と耳にすることは多いのですが、原因についてもう少し詳しく知っておきましょう。

歯周病の原因は

「歯周病の原因は、歯周病原因菌です。しかしこれは、日常生活をするうえで誰もが保有している菌で、ゼロにすることは難しいのです。菌をゼロにしようと神経質になるのでなく、増やさないようにすることが大切です」

日頃のケアで歯周病菌の量を少なく抑えておくことが、歯周病の発症要因を抑えることにつながります。

歯周病は人にうつる?

歯周病は感染症なので、人にうつしてしまうことがあります。唾液を通して感染し、歯周病菌ゼロのまま大人になることは難しいと言われます。赤ちゃんや子どもの食事を大人が「ふぅふぅ」と冷ましてあげることでも、感染のきっかけになるのです。

「感染自体はリスクでありません。日常生活を送るうえで必ず起こりうるものです。それを気にしすぎるのではなく『歯周病菌に餌を与えなければいい』という考え方でいるのが大切です」

いかに感染しないか、ではなく、いかに発症しないようにするかが、歯周病の予防のポイントです。歯周プラーク(歯垢)を口の中に残さないことが重要です。

歯周病になってしまったら、治療方法は?

「もしかして歯周病かも」と思ったら、歯科医にかかって診てもらうことが大切。歯周病を発症しているのか、それ以外の病気の疑いがあるのかを判断してくれます。歯周病だと判断されたら、どうしたらいいのでしょう?

歯周病には軽度から、重度まで段階がある

「歯周炎は軽度・中等度・重度と3段階に分けられていて(日本歯周病学会ガイドライン)、決められた検査方法をもとに判断します。歯を支える骨と歯の付着があるかどうか(アタッチメントロス)を、骨の減少と歯肉の炎症をチェックし、その数値から分類します」

軽度歯周病であれば、セルフケアでも効果あり?!

歯周病も軽度の歯肉炎であれば、自宅でのセルフケアで改善につながることもあります。

「歯周病もホームケアで、症状の改善が期待できる場合があります。ただし、その人に合う歯ブラシや歯の磨き方を正しく知っておくことが前提です」

「歯周病になったからでなく、健康なうちから歯科医や専門医で受診することは大切です。歯周病の原因となる菌の状態や、歯石や歯垢の付着のチェックは専門家を頼って。毎日の歯磨きも、お口の状態にあわせた歯ブラシ選びと磨き方の指導を受ければ、歯周病だけでなく虫歯の予防にもつながります」

中から重度の歯周病は歯科医や専門医できちんと治す

歯肉炎も進行が中度・重度となったり、あるいは軽度でも歯周炎になってしまっていれば、歯科医や専門医での治療は必要です。急に痛みが出てくることは少ないので、出血や腫れなどが気になったら歯科医へ行きましょう。

歯科医では、歯と歯茎の間に器具を入れて歯周ポケットの深さを測り、歯肉の炎症の様子もチェックし、必要な治療を行ってくれます。歯茎の中をキレイに洗浄してくれます。
ホームケアの歯磨きでは、歯茎や歯の根元を傷つけないブラッシングで汚れを取ることが大切です。

市販の歯周病予防 歯磨き粉 その効果は?

毎日の歯磨きは歯周病を予防するうえでも大切です。では、選ぶ歯磨き粉は、市販のものでいいのでしょうか。そもそも効果はあるのでしょうか。

歯磨き粉 医薬品か医薬部外品はどう違う?

よく耳にする、医薬品と医薬部外品。医薬部外品とは、治療というよりも「予防や衛生」のためもので、一定の濃度で厚生労働省が許可した効果・効能に有効な成分が配合されたもの。医薬品は、病気の治療を目的としたものです。

「(市販で買える)歯磨き粉は、医薬部外品がほとんどなので、違いというと、歯科医で取り扱いがあるかどうかでしょう。歯科医や専門医では、歯周病が重度な場合、どんな歯周病菌がいるのかを調べ、それによって歯磨き粉を選ぶこともあります。けれど、一般の方がそのような細菌検査をすることもありませんから、歯周病用の歯磨き粉を選べばいいでしょう」

歯周病用の歯磨き粉には、殺菌作用や、炎症を抑制してくれる作用のあるものがあります。一般的な歯磨き粉にくらべ、歯周病の痛みにアプローチしてくれるので、痛みがあって歯磨きしづらい場合などは活用すると良いでしょう。

リンス洗口液だけでも効果はある?

歯周病予防で大切なのは、お口の中を「良い状態」にキープすること。そのためには、正しい歯磨きの方法を身につけていることは重要です。

歯ブラシを当てると痛みがでる場合は、歯周病用消炎作用のある歯磨き粉を使う、あるいはその場所を避けて歯ブラシでブラッシングをして、リンス洗口剤で補います。
歯周病のケア、予防のためには汚れを落とすことが一番重要なので、リンス洗口剤はあくまで補助的なものとして使いましょう。

知覚過敏などを起こしている場合、研磨剤なしは効果ある?

歯周病によって歯茎が本来の位置より下がってしまうと、歯の根面が露出します。神経までの距離が近くなってしまうことで、知覚過敏を訴える人も多いようです。

「知覚過敏には、研磨剤の入っていない歯磨き粉を使ってみてもいいですね。歯の上部はエナメル質で硬いのですが、根っこはセメント質。柔らかいので、研磨剤が入っていない、あるいは低濃度の歯磨き粉を選び、歯ブラシも [やわらかめ] を選ぶのがいいですね」

歯周病ケアに効果的な歯ブラシはある?

しっかり汚れを落とすことが歯周病ケアでは大事なこと。では、歯周病のケアに効果的な歯ブラシは、どう選べばいいでしょうか。

歯ブラシは [ふつう] から [やわらかめ] のものを選びましょう

歯周病では、歯茎の炎症や出血などの症状もあるため、やわらかい歯ブラシを選ぶ方は多いようです。ここで抑えておきたいのは「歯周病ケアで大切なことは汚れを残さない」ということ。正しい歯磨きのための歯ブラシを選ぶことが重要です。

「歯肉の炎症が強く、痛みもある場合には一時的に柔らかい歯ブラシをお勧めすることもありますが、[ふつう]~[やわらかめ]の歯ブラシを、口腔内の様子に合わせて選びましょう。まずは歯周プラーク(歯垢)除去を優先して考えます」

根っこはセメント質で柔らかいので、汚れが残っていると虫歯になりやすく、進行も早いのです。汚れをかきだすためにと硬い歯ブラシでゴシゴシすると、歯を削ってしまうことにもなりかねません。歯科医で状態を診てもらい、歯周病の管理と虫歯の管理のどちらを優先するかを診てもらうと安心です。

「お口の中は生きています。歯科医を一度受診しているから大丈夫だと思っても、そうは言い切れません。健康なときから定期的に受診して、その時々のご自身に合う『道具』を使うようにしましょう」

まとめ

歯周病は、そのままにしていると歯を支える骨まで溶かしていく病気です。一度ダメージを受けた骨が元に戻ることはありません。自然に治るものでもなく、痛みを感じないまま長い年月をかけて進行していきます。口腔ケアがしっかりできない状態が続くと、誤嚥なから肺炎につながるなど、身体全体へのリスクも心配されています。

口腔内を清潔に保つ毎日のケアと、定期的な歯科医のチェックで、歯周病原因菌を増やさないようにして、歯周病を発症させないようにすることは可能です。

ずっと健康な歯と歯茎でいられるようにしたいですね。

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